コラム Column
2025年01月27日
2024年自然災害まとめ①台風10号の概要/被害状況/洪水予測状況
2024年も多くの自然災害に見舞われました。2024年元旦に発生した能登半島地震だけでなく、台風などによる洪水被害も多く発生しました。その中の一つとして、2024年8月に日本列島を襲った台風10号は、記録的な大雨と暴風をもたらし、複数名の死者と100名を超える負傷者を出す大きな被害となりました。本記事では、台風10号の概要、被害状況、地球温暖化との関連性や、当時の洪水予測の状況について詳しく解説します。
2024年自然災害まとめ①台風10号の概要
台風10号は、8月22日午前3時にマリアナ諸島で発生した後、日本の南を北上し、8月29日午前8時頃に鹿児島県に上陸しました。その後、進路を次第に東よりに変え、日本列島を横断するように移動し、9月1日に東海道沖で熱帯低気圧に変わりました(図1)。
この台風10号は上陸前の8月27日ごろから熱帯低気圧に変わった後の9月2日にかけて日本列島に記録的な大雨や暴風をもたらしました。鹿児島県では28日に台風を要因とする暴風、波浪特別警報が発表され、枕崎では最大瞬間風速51.5メートルを記録しました(図2)。また、宮崎県では竜巻が発生し、農業用ハウスや電柱が崩れる被害が発生しました。さらに、台風の速度が遅く長期間影響が及んだこと、また台風から離れていても台風に伴う湿った空気の流入により雨が降りやすくなっていたことから各地で大雨となり、宮崎県えびの高原や静岡県天城山では総雨量が900ミリを超えました(図2)。
大雨に伴い、洪水被害や土砂災害も各地で発生しました。例えば愛知県蒲郡市では土砂崩れが発生し、3人の方が亡くなりました。岐阜県の西濃地区では杭瀬川の水があふれ(図3)、156棟の住宅で浸水被害が確認されています。神奈川県においても河内川(平塚市)の溢水によって冠水被害が発生しています。これら台風10号による被害により、全国あわせて6人が死亡し、127人がけがをし、1人の行方が分からなくなっています。(出所:2024/8/31時点でのNHK報道)
参考:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240830/k10014565351000.html
https://www.data.jma.go.jp/yoho/typhoon/route_map/bstv2024.html
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/mdrr/periodstat/20240826a/20240901/24/index_pre.html?gazou=pre72h_mx00s&zoom=0&x=2000&y=1500&v=ev&sl=undefined&wt=348
2024年8月台風10号の社会的影響
今回、このような人的被害だけでなく、交通インフラの停止など、社会的影響も大きくなりました。東海道新幹線は、8月30日から9月1日の3日間、静岡県の三島駅から名古屋駅の間の上下線で計画運休を実施しました。東海道新幹線において3日間連続での運休はこれまでにないことでした。また、空の便にも影響し、29日は336便が、30日には730便以上が欠航しました。また、さまざまなスポーツ、芸能イベントが中止となりました。
参考
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240902/k10014569891000.html
https://www.aviationwire.jp/archives/307286
2024年8月台風10号の進路の特徴
台風10号の発生当初、気象庁はこの台風はマリアナ諸島からそのまま北上し、27日ごろに東日本付近に接近するという予想をしていました。しかし、台風10号の進路は当初の予想より西へと変化し、日本に接近するタイミングが遅くなりました(図4)。
では、このように台風10号の進路予報が外れてしまった理由はどこにあるのでしょうか。一つは、台風の西側における寒冷渦の発生をモデルが再現できなかったことにあります(図5)。寒冷渦とは上空に寒気を持つ低気圧です。寒冷渦と台風が近づくとお互いに影響しあい、台風は反時計周りに進みます。今回、この寒冷渦の発生を予想できなかったため、それに伴う台風の西進を事前に予想することが難しくなっていました。
また、今回の台風進路の特徴として、日本付近で非常にスピードが遅かったことが挙げられます。この理由として台風を押し流す上空の風が日本付近で弱かったことが考えられます。通常、日本付近に近づいた台風は強い偏西風に乗って西から東へ通過することが多いですが、今回は偏西風が北海道付近に離れていたために影響を受けることができず(図5)、ゆっくりとした速さで進んだことで長時間日本付近に影響をもたらしました。その偏西風が北に位置した原因として、日本海の海水温が例年よりも3度から5度程度も高いところが広がっていた(図6)ことが可能性として指摘されています。そのため、暖かい空気が北にせり出して偏西風が北に移動し、日本海の北部に位置していたため台風が風に乗ることなくゆっくり移動したということになります。
https://www.gpvweather.com/jmagms.php?y=2024&m=8#gsc.tab=0を改変
https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/data/db/kaikyo/daily/sst_HQ.html
気候変動(地球温暖化)の影響
地球温暖化が進むと、海水温が高くなるため、台風に供給される水蒸気量が増え、台風の勢力が強まる可能性が指摘されています。今回の台風10号についても、海外の研究機関の試算によると、産業革命前と比較したときの気温上昇により、最大風速が時速約6.5マイル、または7.5%強くなっていることを報告しています。また、海水温が高くなることで、前述したように偏西風が北に偏り、日本付近での速度が遅くなる可能性が指摘されています。
洪水予報ソリューションWater Visionによる予測結果と実際の洪水被害との比較
図7はGaia Visionが開発したリアルタイム洪水予報ソリューション「Water Vision」による、8月31日6時の解析に基づく8月31日12時における岐阜県の杭瀬川周辺(赤坂東地区)の浸水深の予測結果になります。図に示す地域においては11時ごろに杭瀬川が氾濫していますが、Water Visionでもそれを再現することができています。

このようにWater Visionでは洪水の浸水範囲や浸水深の予測が可能であり、これらを活用することで自治体や民間企業は、適切な避難誘導/設備保全を行うことができます。特にグローバルに複数の拠点を有している製造、インフラ、不動産、物流、建設業界等の方々や、これらの企業への投融資を行っている金融機関の方々、また河川管理や危機管理に携われている自治体・公共団体の方々のご参考になれば幸いです。ご不明点などありましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。
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