コラム Column

2024年01月16日

2023年の気象災害まとめ

今年の夏は猛暑が続き、平均気温は観測を開始した1898年以降で最も高くなりました。このように今年の夏は、異常とも言える暑さとなり、これには地球温暖化の影響も関与していると考えられています。また、地球温暖化は暑さ以外にも気象災害の激甚化をもたらすことが指摘されています。今年の夏も、残念ながら大規模な気象災害が発生しました。まず、被害に遭われた方々には一刻も早い復旧をお祈りいたします。本記事では、防災や気候変動への理解や意識を醸成する意味をこめて、2023年夏に発生した気象災害の発生被害やメカニズム、温暖化との関係についてまとめました。

なお、本記事は2022年に公表した以下記事の2023年版です。
 2022年夏の自然災害まとめ|Gaia Vision Inc.

参考)
夏(6~8月)の天候
気象庁 | 災害をもたらした気象事例(平成元年~本年)

日本で発生した2023年夏の気象災害

前線及び台風2号による大雨(6/1~3)

2023年6月1日~3日にかけて梅雨前線や台風2号から流れる湿った空気の影響で西~東日本の太平洋側を中心に大雨となり、高知県、和歌山県、奈良県、三重県、愛知県、静岡県では線状降水帯が発生しました。1時間降水量が観測史上1位の値を更新した地点もありました。この大雨により、奈良県~大阪府を流れる1級河川である大和川では氾濫が発生しました。また、全国で8000棟以上の住宅被害が発生しました。

(出所:気象庁

上図を見ると、梅雨期において、大雨につながる典型的なパターンとなっています(梅雨前線が本州を停滞し、太平洋側から台風が近づきながら、暖かく湿った空気を前線に供給している)

梅雨前線による大雨(6/28~7/16)

6月28日以降、梅雨前線や前線に向かう湿った空気の影響で各地で大雨となり、線状降水帯の発生したところもありました。6月28日から7月16日までの総降水量は大分県、佐賀県、福岡県で1,200ミリを超えたほか、北海道地方、東北地方、山陰及び九州北部地方で7月の平年の月降水量の2倍を超えた地点もありました。1級河川9河川で氾濫が発生し、3082棟もの住宅被害が生まれました。

また、多くの人的被害も発生しました。7月13日には、富山県で線状降水帯による大雨で土砂災害が発生し、避難の呼びかけを行っていた市議会議員の方が亡くなるという痛ましい被害が発生しました。7月15日には、秋田県で車中に取り残され1名の方が亡くなりました。これらを含め、この期間の水害で14名もの死亡者が発生しました。

 参考)
  6 月 29 日からの大雨に関する被害状況等について 
  7 月 15 日からの大雨に関する被害状況等について
  住民に避難呼びかけ死亡した市議に黙とう 富山 南砺 | NHK
  秋田で1人死亡、男性を車中で発見 東北で大雨続く 厳重警戒 – 産経ニュース

台風13号による大雨(9/7~9)

台風第13号による湿った空気の影響で関東甲信地方や東北太平洋側では、8日から9日にかけて大雨となりました。このうち、伊豆諸島、千葉県、茨城県及び福島県では線状降水帯が発生し、1時間に80ミリ以上の猛烈な雨が降った所がありました。この大雨では26河川が氾濫し、2929棟もの住宅被害が生まれました。

大雨のメカニズム、温暖化との関係

日本の夏における大雨は主に梅雨前線や台風、そしてそれに伴う暖かく湿った空気の流入によって引き起こされます。

今年の梅雨期に上述したように各地で大雨が発生した要因として、日本付近へ暖かく湿った空気が多量に流れ込んで梅雨前線の活動が活発となったことが考えられています。暖かく湿った空気が多く流入した理由としては、太平洋高気圧が強く西に張り出し、高気圧縁辺にそって多量の水蒸気が日本付近に流れ込みやすい状況が続いたこと、また、長期的な温暖化に伴う水蒸気量の増加傾向の影響が指摘されています。さらに、上空のジェット気流の蛇行が日本付近で南に蛇行し、前線付近で活発な対流活動が持続しやすかったことも指摘されています。

出所:https://www.jma.go.jp/jma/press/2308/28a/kentoukai20230828.html

線状降水帯について

前述した3つの大雨の際には線状降水帯が発生し、局所的に大雨を降らせました。この線状降水帯について解説します。

線状降水帯とは、次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の強い降水をともなう雨域を線状降水帯といいます。線状降水帯はいくつかのタイプに分けられますが、そのうち特に災害に直結する可能性の高いバックビルディング型についてそのメカニズムについて説明します。バックビルディング型の線状降水帯の発生メカニズムは以下の通りとなります。

① 暖かく湿った下層風が、山地や寒気と衝突して上昇し、積乱雲が発生
② ①で発生した積乱雲は上空の風に流され移動するが、その積乱雲からの下降流と下層風が衝突し、①と同じ場所で再び積乱雲が発生
③ ②を繰り返すことで、同じ場所で次々と積乱雲が発生
④ 次々と発生した積乱雲は上空の風に流され、線状に通過していきながら衰退・消滅する

ただ、より詳細なメカニズムについて以前未解明な部分も多く存在しており、現在研究が進められています。

また、今年から線状降水帯の発生が予想される場合、発生の予想される半日程度前から呼びかけが気象庁により発表されるようになりました。ただ、現在の知見や技術では正確な予測は難しく、的中率の向上は今後の課題となっています。しかし、線状降水帯が発生しなくとも大雨となる可能性は高い状況であることには変わりなく、呼びかけが発表された場合、大雨災害への危機感を持つことが必要です。

出所:気象庁|線状降水帯に関する各種情報の解説

海外における大きな水害

こうした洪水災害は日本だけでなく、世界各地でも多発するようになってきています。

2023年9月には、アフリカ北部のリビアで、9/10にメディケーン(地中海性ハリケーン)と呼ばれる台風のような低気圧が上陸した影響で、大雨となり、多い所で24時間に400ミリを超える大雨を降らせました。この大雨の影響でリビア東部では複数のダムが決壊し、大規模な洪水が発生しました。9/23時点で4000人以上が亡くなり、8540人が行方不明となっています。

このように気候変動による気象災害の激甚化は日本だけでなく世界において喫緊の課題となっています。

参考:リビア洪水で8000人死亡 いったい何が?なぜ被害拡大?

今後の洪水対策

このように今後も気象災害の激甚化・多発化していく中で、どう治水の取り組みをしていくかが重要となります。

水害に対する防災・減災という意味では、ハード面・ソフト面の両方で対策をすることが必要です。ハード対策とは川の護岸設備やため池など、何かしらの構造物をもって災害による被害を抑える方法、ソフト対策は避難支援などを指し、構造物を用いない災害対策方法になります。

ハード対策を講じる上では、現状の洪水リスクと対策の効果の適切な評価並びに必要投資額や期間/実装方法の実現性などを事前に見立てることが重要です。公的機関が推進する公共事業において、想定通りの効果が見込めなかったり、計画段階での実装方法では実現が難しく再検討を伴った結果大幅に期間が予定超過するといったことを避ける必要があります。

公共事業だけでなく、企業単位でもハード対策に取り組んでいる事例は多くあります。重要資産や電気設備を高いフロアに移動させる・工場の周囲の防波堤整備、設備の嵩上げなどの事例が挙げられます。

 参考:浸水被害防止に向けた 取組事例集(国交省)

民間企業(製造業)における災害対策の種類(環境省A-PLAT「気候変動の影響と適応策インフォグラフィックス(事業者編-製造業)」をもとに、Gaia Vision作成)

近年においては、ハード対策の限界等に鑑み、ハード対策だけでなくソフト対策も含めて包括的に取り組むことの重要性が挙げられることが増えています。流域治水の文脈からも、流域の関係者が一体となってハード・ソフト両面から取り組むことの重要性が謳われています。リスク情報の高度化や予測情報の活用の促進などを通じて、被害軽減に繋げられると想定されています。

 参考:被害軽減・回復力向上を中心としたソフト対策について(国交省)

また、民間においては、すでに多くの企業がBCPを整備し、実際に被害の軽減に繋がられた事例もでてきています。今後更に多くの企業が将来の気候変動影響も加味しながら、BCP/BCMの高度化などにも取り組んでいくものと考えております。

 参考:民間企業の気候変動適応ガイド(環境省)

2023年は気象予報業務法と水防法が一部改正され、これまでは気象庁しか予報することが出来なかった洪水や土砂崩れに対して、一定の予測技術が認められる民間事業者も予報を提供出来るようになりました。この法改正により、民間企業によって国では対応することのできないような、ピンポイント地点の詳細で定量的なリアルタイムの洪水予報が可能となり、民間企業のBCPの高度化や自治体での活用の後押しになると想定します。

まとめ・Gaia Visionの取り組み

本稿では、2023年に発生した夏の水害について、各事例の概要や被害状況、発生メカニズムなどを概観しつつ、このような災害に対する取り組みの方向性に関する整理を行いました。大まかには、梅雨前線の影響と線状降水帯の発生に伴って大雨が発生し、洪水に繋がっています。洪水が頻発地において2023年も発生したケースがある一方で、例えば秋田県では、過去さほど大きな洪水が発生してこなかった中で2023年に洪水が発生した場所もあります。このような場合、備えが十分でなく、災害が被害に繋がりやすくなることもあります。過去に洪水が発生していなくとも潜在的にリスクが高い可能性のある場所もあり、改めてきちんと気候変動影響も考慮の上、リスク評価を行い、適切な対策をハード・ソフト両面で検討していく重要性があると考えます。

Gaia Visionは、気候変動により激甚化する災害リスクを少しでも下げることを目指しています。東京大学で開発されたグローバル洪水シミュレーション技術を活用した、気候リスク分析プラットフォームやリアルタイム洪水予測ソリューションの開発・提供を行っています。これらを活用することで自治体や民間企業は、気候変動も考慮した説明性の高いリスク評価/情報開示/対策検討や、適切な避難誘導/設備保全を行うことができます。

特にグローバルに複数の拠点を有している製造、インフラ、不動産、物流、建設業界等の方々や、これらの企業への投融資を行っている金融機関の方々、また河川管理や危機管理に携われている自治体・公共団体の方々のご参考になれば幸いです。ご不明点などありましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。