コラム Column

2023年11月30日

COPのこれまでの議論の振り返りとCOP28の見どころ

本日よりCOP28が開始されました。1.5℃目標に対する進捗点検など、色々な注目トピックがあります。
本稿では、特に気候変動適応関連において、これまでのCOP27や世の中の議論を振り返りつつ、個人的なCOP28の議論の見どころを書き下したいと思います。

1.これまでの議論(COPにおける気候変動適応関連):ロスダメ基金の設立、先進国からの資金拠出への期待高まり

周知の通り、COP27ではロスダメ基金の設立がBig newsでした。(ロスダメ:損失と損害=Loss & Damageの略称。損失は気候関連災害で失われたもの、損害は損失までは行かずとも受けた被害を指していると理解)ロスダメ基金は、途上国においてこれまで受けた被害の補填や今後の被害の軽減のための資金を、先進国から拠出する、という意味合いを含む基金です。

だいぶ前より、途上国と先進国の対立構造が続いてきました。「気候関連災害は、温室効果ガスを多く排出してきた先進国の責任であり、先進国は途上国に対して受けた被害の補填をするべきである」と主張する途上国と、そうした責任問題への議論の波及を回避したい先進国側との間の対立構造です。
※こうかくと、先進国側が一方的に悪いように見えなくもないですが、実際問題として発生した被害は、自然変動と人為起源の複合的な事象であり何を誰の責任に帰すべきかは極めて難しく、一筋縄ではいかない議論だと理解しています

また、途上国に対する防災や災害復旧に対する支援は、世界銀行などの既存の枠組みの中でも行われており、その延長で良いのでは、というのも先進国側の主張でした。

こうした中で、COP27の中でも大いに議論が紛糾しましたが、会の終わり間際で欧州側が基金の設立を支持する方向に傾いたことで、「基金の設立」という成果に繋がったとされています。
ここにおいては、途上国においても一定の譲歩があったものと理解しています。支援対象を「特に脆弱な途上国に絞る」ことや、先進国による拠出以外の資金源を考慮することなどです。

一方で、問題はこの先にあります。「誰がどの程度の資金を拠出するのか」です。
これはそう簡単に決まるものではないと思いますが、徐々に議論を詰めていく必要があるはずです。

COP28を控え、直近2023年11月にはUSのケリー気候変動特別大使が数百万ドルの資金供給を表明するなど、徐々にですが、資金源の議論も進んでいくことが期待されています。(”数百万ドルが少ない”という批判もあるようですが、まずは0→1を進めることも重要と考えます)

Ref) Kerry’s Promise of ‘Millions’ for Climate Damages Criticized by Activists

なお、こうしたテーマについては、IGESさまのレポートが詳しいです。

Ref) https://www.iges.or.jp/jp/projects/cop28

2.これまでの議論(COP以外を含めて気候変動適応関連動向):適応投資ギャップの拡大・資金源の具体化に向けた動き

国連系の環境組織であるUNEPが、毎年Adaptation Gap Reportというレポートを出しています。
2023年のレポートによると、Adaptation Gapは、現状10~18倍程度あり、前年よりも広がっているそうです。
Adaption Gapとは、気候変動適応のために世界全体で必要としている資金と、実際に供給されている資金の開きを指しています。
必要としている資金は、いくつかの手法により算出されており、モデル化されて計算されています。
供給されている資金は、例えば世界銀行が気候変動適応として拠出している資金などがカウントされていると考えられます。

こうした資金不足に対する主張を踏まえ、具体的な資金拠出のスキームを提案している例もあります。
バルバドスは、海面上昇により「沈む島嶼国」と言われています。そうした中で、首相のモトリー氏は、IFMの年次総会に先立つ形で財源確保のための新たな金融スキームを主張している。
例えば、未使用のSDR(特別引出権)のうち1,000億ドルを必要な国々に再配分すべき、という内容です。SDRは、IMFが発行する仮想通貨の一種です。元々金・ドル本位制がゆらぎ始める中で、国際流動性資産として不十分とされたドルを補完するための新たな準備資産として1969年に設立されたものです。米ドル、ユーロ、円、英ポンド、人民元の5つの通過に換金できますが、政府債務などの限定的な用途に用いられます。既存のスキームの中で、比較的先進国側が受け入れやすい形で途上国側で必要な資金工面を行う方法として提案されているものと理解しています。
 出所: https://toyokeizai.net/articles/-/625797

また、今後の資金供給の流れを見据えると、資金の使途が適切かを明確化するスキームの整備が必要となると考えられます。
これは必ずしも気候変動適応や今の文脈に限る話ではありませんが、EUではグリーンボンド基準を定める動きが従前より進んでおり、今年(2023年)採択されました。概ねタクソノミーと整合した基準となっています。(タクソノミー自体は、何が”クリーンなエネルギーなのか”といった”グリーン”か否かの線引を試みたスキームですが、その一つに気候変動適応も含まれています)

国内でも、例えば、RIEFが適応ファイナンスのガイダンス案を公表しています。

 Ref. https://rief-jp.org/ct4/137369

3.論点:お金の議論に加えて、適応の目指す姿が重要(Early Warning System/それ以外含めて)

ここまで主にお金の話をしてきましたが、当然ながら、そのお金の使徒である「具体的な適応施策」が重要となります。

  • 正確には、「ロスダメ」と「適応」は別の議論であります(ロスダメが、「発生してしまった気候災害の被害に対する復旧/補填」の意味合いを持つのに対し、適応は「気候災害に備える」意味合いが強いため)
  • しかしながら、パリ協定において、「ロスダメの回避・最小化・対処が重要」と謳われているのですが、その例示された中身は適応そのものであります(例 Early Warning Systemの構築、など)
  • また、「過去に起きてしまった被害に対する責任」(が故にどの国がいくら払うべき)という議論は極めて難しいと考えられ、私は基金使途に関してロスダメと適応はある程度包括的に考えた方が良いと理解しています。

昨今声高に叫ばられている適応施策の一つが「Early Warning System(早期警戒システム)」です。自然災害が予見される際に、いち早くアラートをあげ、避難などの適切な事前対応を行うことを指しています。
2022年に国連のグテーレス事務総長が「5年以内にEarly Warning Systemを全世界で実現する」と提唱したことを受けて、WMO(世界気象機関)はじめ、様々な機関が動いています。

  • Gaia Visionのリアルタイム洪水予測ソリューションも、まさにEarly Warning Systemを実現するキーコンポーネントです。
  • COP28のジャパンパビリオンにおいて、国内のEarly Warning System関連プロダクトの一つとして、Gaia Visionのプロダクトも取り上げられています。

日本においても、2023年より環境省主導でEWS協議会が立ち上がりました。Gaia Visionも含め、国内のプレイヤーで連携し、世界のトレンド/ニーズに応えていくことが、活動趣旨の一つとなっています。

一方で、Early Warning Systemがあれば、すべて解決するわけでは(当然ながら)ありません。
むしろ、どちらかといえばEarly Warning Systemは”最後の一手”であり、重要なのは、災害の起こる前の備えにあります。それは、地道ながらも、正しく将来の気候変動も加味したリスク評価を行い、(洪水を対象とすると)適切な治水対策(河道掘削、ダム/堤防/貯水池構築など)を行っていく-こうした取り組みを継続的に行っていくことを指しています。

上記の資金供給の流れが、Early Warning Systemもそれ以外の対策も含めて、全体感を持って適切なリスク評価と施策の選定に繋がるか、という点が本質的に重要になってくると考えます。

  • Gaia Visionでは、治水対策効果評価ソリューションの研究開発を行っています。COP28でも、一部紹介される予定となっています。

4.COP28の見どころ:ロスダメ基金の財源/スキーム&適応目標の具体化

以上踏まえ、COP28の個人的な見どころは以下2点です。

1. ロスダメ基金の財源/スキームの議論がどの程度進むか?

  • 財源については、上述の通り、先進国側からの資金拠出の表明への期待があります。これが実際にどうなるかが、まずもっての注目点です。
  • また、議論のフォーカスは単に”誰がいくら払うか”だけではないはずです。
    日本のGX戦略においては、10兆円の官主導の投資をレバレッジして150兆円の資金の流れを作ることが目指されています。 そもそもCOP27の結論は、”先進国だけが資金拠出をする”以外の含みを残した点にもあると思うのです。どうしてもこうした国際会議においては、合意形成を実現するために抽象レイヤーにとどまるのが常だとは思いつつ、少しでもこうした財源議論が進むかは注目したい点です。
  • 加えて、スキームとして、従前のスキーム(例えば、世界銀行からの途上国支援)からどう新しい内容が提案されるのか興味深いです。様々な観点により、途上国側が新たなスキームを求めている、という声も聞かれます。今後4年間は暫定的に世銀が運用すること自体は決められておりますが、何らか議論が生まれるか要注目です。

2. 適応やロスダメの目指す姿が少しでも言語化されるか?

  • 上述の通り、本質的に重要なのは資金をどう使って、どんな「適応した世界」を実現するかであります。
  • COP28の中で、具体的な適応施策の議論がなされることはないでしょう。一方で、COP26において、「適応の目標」に関する議論を前進させることを採択しています
    • GlaSS: GGAに関するグラスゴーシャルム・エル・シェイク作業計画
    • GGA: Global Goal on Adaptation
      → これは、気候変動緩和の世界において、「20xx年にカーボンニュートラルの達成」といった明確な目標設定がよくなされるのに対し、適応の世界において、目標設定(特に定量化)の難しさがある点が背景です。
  • そうした中で、やはりCOPのような国際会議で、何らか具体像が決められるとは考えづらいですが、それでも大枠などのアウトプットはなされると想定されるので、注目したいと思います。  
  • なお、Gaia Visionでは、下図のようにグローバル全体のリスクをローカルのリスクの積み上げで紐付け、適応投資の効果を世界全体で見られる仕組みを作る構想を提唱しています。
  • また、ここで扱っている現象は、洪水だけでなく、海面上昇、自然資本、健康被害など多岐にわたります。これも、国によって重要な現象が大きく異なるため、国際会議で合意形成されるテーマではないと思料しますが、特に今年は洪水に加えて、熱波/森林火災/水資源/生物多様性などの注目が集まっている中で、何らかの議論があるのか注目しています。

5. まとめ

COPに限らず、昨今の気候変動トレンドを受けて、大きく以下5つの観点が重要なトレンドと考えます。

  • 適応に係る資金不足の声の高まり
  • 資金源に関する議論の具体化の動き
  • 資金と施策を紐付ける動き   ーーーーここまで資金スキーム論
  • 従来から防災投資が着実に進む動き
  • 国際的にトップダウンで新たな施策を促す動きーーーー具体的な適応策論

特に、上図右下の通り、大上段で行われる資金スキーム論を、”正しく”適応策につなげていくことが重要と考えます。”正しく”が何かは難しいテーマですが、きちんと将来の気候変動も加味してリスクの全体像/優先度を理解して、Early Warning System + その他含め、包括的に取り組んでいくことが望ましいと考えます。

Gaia Visionは、気候変動により激甚化する災害リスクを少しでも下げることを目指しています。高解像度でのグローバル洪水シミュレーション技術を活用して、1. 気候変動リスク分析プラットフォーム、2. リアルタイム洪水予測、3. 治水対策効果評価 に取り組んでいます。1.においては、特にグローバルで将来気候シナリオ分析を高解像度に行える点が評価され、国交省の手引への掲載や活用事例の創出が進んでいます。2.においては、1日以上のリードタイムでピンポイントに洪水浸水を予測するプロトタイプが開発され、自治体での避難指示や、製造業・インフラ業での予測的事前保全への活用などが想定されています。3.においては、想定被害のシミュレーションをもとに適切な治水事業につなげる仕組みの開発を行っています。

グローバルに複数の拠点を有している製造、インフラ、不動産、物流、建設業界等の方々や、これらの企業への投融資を行っている金融機関の方々、また河川管理や危機管理に携われている自治体・公共団体の方々のご参考になれば幸いです。ご不明点などありましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。