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2023年03月20日

CDPからの評価を高めるには?気候変動の物理リスクの観点から

コラムのポイント

  • CDP質問書に対して適切な回答をすることは、情報開示を通じて投資家からの評価を上げる上で必要である
  • 物理リスクに関する項目もあり、定量的な評価が求められている
  • 適切な開示に向けて、定量的な分析ツールの活用も検討すべき

コンテンツ


CDPとは、投資家、企業、国家、地域、都市が自らの環境影響を管理するためのグローバルな情報開示システムを運営する、英国の非政府組織(NGO)です。2000年に発足し、日本でも2005年から活動を始めています。現在、気候変動に関する企業の情報開示をめぐって、TCFDやISSB、NGFSなどさまざまな機関や基準が乱立している状態である中、本コラムではCDPに着目をします。(上記項目の整理については過去のコラムにまとめております)

CDPの主な活動内容として、気候変動に関する企業の取り組みのスコアリング、開示が挙げられます。具体的には「気候変動質問書」を企業に送付し、得られた回答をもとに評価、結果の開示を行なっています。

2022年時点で、資産総額130兆米ドル超、680を超える投資家から署名を集めていることからも、投資家からの評価にも大きく影響することが予想されます。すなわち、企業は気候変動に対して取り組みを進めるだけでなく、それをCDPの評価スコアにつなげていく必要があります。

本コラムでは、物理リスクに特に着目して、CDPの内容について詳しく見ていきます。

CDP 気候変動質問書の概要

CDPの質問書は、ESG投資を行う機関投資家や大手購買企業の要請に基づき、企業の環境情報を得るために送付されるものです。質問項目はTCFD提言と整合しているため、CDP質問書に回答することで企業は世界中の機関投資家等の要請に応えるだけでなく、TCFDに沿った情報開示をすることができます。企業向けには、気候変動、フォレスト、水セキュリティの3種類の質問書があります。CDP質問書の内容は、毎年、投資家や企業、政府関係者など様々なステークホルダーからのフィードバックに基づき、改訂されています。CDPの元々の名前”Carbon Disclosure Project”からも分かる通り、気候変動に関する質問は最も歴史が長く、

CDPは、東証プライム市場上場企業全社など日本企業2000社超に気候変動質問書を送付しています(2022年度時点)。CDP質問書への企業からの回答は毎年増加し続け、2022年における気候変動・森林破壊・水の安全保全等の環境関連データを開示した企業が、世界では前年度比42%増となる1万8700社超と、過去最多になりました。日本企業は特に成績が良く、最も評価の高い気候変動Aリストを獲得したのは世界最多の74社と、注目度もパフォーマンスもとても高いのが特徴です。日本企業がCDPへの取組をおろそかにしてしまうと、業界から取り残されて機関投資家等からの投資を受けられなくなるなどのリスクが高まるかもしれません。

気候変動質問書の質問カテゴリーとして、情報開示、認識、マネジメント、リーダーシップの4段階があります。スコアリングの流れとしては、それぞれのカテゴリーにおいて点数がつけられ、割合に換算されます。一番基礎的なレベルである情報開示から順に、その割合の値が一定のレベルをクリアすると次の段階の評価に移る仕組みになっています。(例えば、情報開示の閾値を突破できなければその他の段階での評価は関係なく評価が決定します)

物理リスクの位置付け

「気候変動質問書」の中で物理リスクに関連する質問は、主に以下の5つとなっています。それぞれが属するスコアリングカテゴリー、さらにスコアリングカテゴリーが全体に対して占めるウエイトをまとめた表を示します。

質問番号質問内容スコアリングカテゴリースコアのウエイト
C2.2a気候関連リスク評価Risk management processes10%
C2.3a事業に重大な財務的または戦略的な影響を及ぼす可能性がある潜在的な気候関連リスクの特定Risk Disclosure8%
C3.2a
C3.3
C3.4
気候関連シナリオ分析の使用
リスクと機会が戦略に及ぼす影響
リスクと機会が財務計画に及ぼす影響
Business Strategy, Financial Planning & Scenario Analysis10%

※ 特定の産業に適用されるものでなく、一般的なスコアリングウエイトに基づく。また、マネジメントのカテゴリーに分類されるものの数値を示す。

もちろん上記には物理リスク以外のリスク評価やそれによる影響、シナリオ分析の話が含まれているため一概に論じることはできませんが、30%弱のスコアを占める質問に物理リスクが関連していることがわかります。

一つずつ質問を詳しく見ていき、回答の際に気を付けるべきポイントをご紹介します。

物理リスクに関連する質問

(C2.2a) 貴社の気候関連リスク評価において、どのリスクの種類が考慮されていますか?

網羅的に自社に関連するリスクを羅列する必要があります。下の枠組み等を用いて、必要な観点を整理することができます。

リスクの種類内容
現在の規制、新たな規制気候変動を悪化させるような活動を制限する、または気候変動への適応を促進するような政策によるリスク
技術低炭素でエネルギー効率の高い経済システムへの移行をサポートするような技術の改善またはイノベーションに関連するすべてのリスク
法的気候関連の訴訟に関するリスク
市場特定の商品、製品、サービスの需要と供給の変動に関するリスク
評判低炭素経済への移行に向けた貢献や阻害に対する、顧客やコミュニティの認識の変化に関するリスク
急性の物理リスク突発的な事象に起因するリスク(サイクロン、ハリケーン、洪水といった極端な異常気象が含まれる)
慢性の物理リスク気候パターンの長期的変化(高い気温が持続)による海面上昇や慢性的な熱波などによるリスク

(C2.3a) 貴社の事業に重大な財務的または戦略的な影響を及ぼす可能性があると特定されたリスクを記入してください。

潜在的に重大な影響を及ぼすと判断されたリスクについて報告することが求められます。

物理リスクについては、急性・慢性でそれぞれ以下のものが挙げられます。

急性物理リスクの例

  • 寒波/霜
  • 台風
  • 干ばつ
  • 洪水

慢性物理リスクの例

  • 豪雨パターンの変化
  • 気温の変化
  • 海岸侵食
  • 熱ストレス

また、想定される財務的影響としては、

  • 直接費の増加
  • 間接費の増加
  • 設備投資の増加
  • 商品およびサービスに対する需要減少に起因した売上減少

などが挙げられます。

さらに、リスクによる潜在的影響額と対応費用の2つが、財務的な情報として求められています。

回答の優良事例として、最高ランクであるA評価を獲得しているアサヒグループホールディングスは以下のように回答しています。

気候変動によって異常気象(豪雨)がもたらされ、洪水や土砂災害の頻度が高くなると、商品の流通網に甚大な被害を与えるリスクがある。アサヒグループの主力商品であるビールやソフトドリンクなどの売上の約30%は7~9月までの夏季に占められており、豪雨災害の発生しやすい時期と重なる。豪雨災害により物流が機能不全になった場合、アサヒグループの事業収益に大きな影響を及ぼすリスクがある。仮に、飲料事業において、夏季(7~9月)の豪雨災害により飲料事業売上の約9.5%を占める九州地区への物流が機能不全となった場合、2021年の飲料社年間販売実績は357,800百万円であるため、357,800百万円×30%×9.5%=10,197百万円に影響が出る可能性がある。 【課題】 このリスクを回避するために、各製造拠点の生産能力や物流を見直す必要がある。 【行動】 当社の売上の16%を占める飲料事業において、製造拠点の配置見直しによるブロック内生産能力の増強や物流拠点の整備などの施策を実施した。これらの施策に対する投資額は、輸送の効率化による約700百万円、物流拠点の強化による70百万円の計770百万円である。 【結果】 これらの施策により、ブロック外転送の削減や、協力工場の製造数量増による原価低減等の合計で、年間590百万円の施策効果が見込める。

https://www.cdp.net/en

不確実性の高いことがらであるため、大きな仮定をいくつか置いた上で大まかな計算を行なっているものの、物理リスクを認識した上で自社に対してどのような影響が起こりうるかについて定量評価していることが読み取れます。

(C3.2a) 貴社の気候関連シナリオ分析の使用について具体的にお答えください。

物理リスクを評価するにあたっては、物理シナリオの使用が推奨されています。その例としては、以下の表に示すものが挙げられます。SSPシナリオとは共有社会経済経路の意味で、放射強制力を組み合わせたシナリオから、下表の5つが主に使用されています。

シナリオ名産業革命以前からの世界平均気温の変化と内容
SSP1-1.9平均1.5℃上昇まで到達しつつ、21世紀末には1.4℃で安定化する。
Net Zeroシナリオ、1.5℃シナリオとも呼ばれる
SSP1-2.6平均1.9℃上昇まで到達しつつ、21世紀末には1.8℃で安定化する。
2℃シナリオとも呼ばれる。
SSP2-4.521世紀中頃には平均2.0℃上昇し、21世紀末には平均2.7℃まで上昇する。
温室効果ガスは現行レベルで推移。
SSP3-7.021世紀中頃には平均2.1℃上昇し、21世紀末には平均3.6℃まで上昇する。
SSP5-8.521世紀中頃には平均2.4℃上昇し、21世紀末には平均4.4℃まで上昇する。
4℃シナリオとも呼ばれる。
IPCC AR6でのデータ

上記のものはIPCCの報告書の中に記述されており、アクセスは公開されているものの専門的な内容であるために各企業が詳細な事項まで対応するためには多くのコストと時間がかかります。Climate Visionをはじめとするツールを用いることで、こうした問題は解決することができます。

(C3.3) (C3.4) 気候関連リスクと機会が貴社の戦略(3.3)/財務計画(3.4)に影響を及ぼしたかどうか、およびどのように及ぼしたかを説明してください。

これまでの過程で特定し、シナリオごとの分析を行った気候関連リスク及び機会が、C3.3では戦略(製品/サービス・バリューチェーン・研究開発投資・操業)、C3.4では財務計画(売上、資本支出、資本分配、資金調達等)に及ぼした影響について回答することが求められます。

CDPジャパンの説明によると、「及ぼした影響」は、「与えられる被害」という意味ではなく、「戦略及び財務計画への反映」を意味するものであるということであり、注意が必要です。すなわち、回答では、リスクの認識→戦略への反映という流れで答えることが求められています。

また、本質問への回答の中で求められる要素は以下の二点です。

1) どういった気候関連のリスクまたは機会を特定しているのかの概説

2) 1)を受けて、それをどのように戦略または財務計画に反映したのかを、将来の時間軸付きで説明 (例:20xx年までに、〇〇を目指します。)

アサヒグループホールディングスの回答例(C3.3)

【自社の戦略に、気候変動リスク・機会がどのような影響を受けたか・影響の期間】

アサヒグループは酒類・飲料事業による収益が売上の約80%を占める酒類・飲料メーカーである。21世紀末に4°C上昇するシナリオにおいて、グループの全生産拠点が台風、水害などに遭遇した場合の影響を試算した。試算では4°Cシナリオ上、100年に1回の洪水影響がある場合を想定し、河川が氾濫する場合と沿岸が氾濫する場合の二つの観点から、各生産拠点へ及ぼす水害リスクを分析した。その結果、床上浸水による固定資産・棚卸資産(在庫)の毀損リスクの可能性のある生産拠点が5ヵ所、毀損額が17.3億円という試算となった。また、操業停止の可能性が高い生産拠点が10ヵ所となり、それら10拠点の営業停止が続いた場合、機会損失が67.2億円となることも判明した

【気候変動リスク・機会に影響を受けた最も重大な戦略的意思決定のケーススタディ】

アサヒグループは売上の約80%が酒類・飲料事業による収益である酒類・飲料メーカーである。アサヒグループの工場のうち、ハザードマップや過去の被害などを踏まえた水リスク評価の結果から特定された洪水リスクの高い工場が物理的な被害を受けた場合のリスクに対応するため、生産拠点操業リスクへの豪雨対策・設備対策を行っている。大規模な自然災害発生時には、人員が確保できないことによる事業の停止、生産・物流機能の被害による商品供給の停滞などのリスクが考える。そのため、アサヒグループでは、従業員(及びその家族)の安全確保、事業継続などをテーマに、各種行動マニュアルの整備、設備・備品の整備、防災訓練などを実施し、グループの事業活動への影響を最小限にとどめるよう、体制構築を推進している。

CDPのウェブサイトより抜粋。太線部は著者加筆。

生産拠点への水害リスクについて、シナリオに従って具体的に分析していることがよくわかります。毀損額、さらに機会損失の金額まで定量的に示しており、アサヒグループホールディングスの分析の深さがよくわかる開示の例だということができます。分析結果を踏まえた対策に関しても、実際にすでに行なっている取り組みを簡潔に示しており、投資家が受ける印象も非常に良いことが推測できます。

まとめ

CDPは多くの投資家から注目を集めており、企業が適切に対応することは必須であるということができます。物理リスクはその中の中心的な内容ではないものの、評価に対して一定の割合を占めており、企業がより良いスコアを得るためには分析を進める必要があります。特に物理リスクのマテリアリティが高い産業(飲食・食品、不動産、電力など)では、CDPへの対応のみならず自社のリスク把握・低減のために、詳細な分析が必要不可欠となっています。CDPなど評価機関からの高い評価を獲得するためには、信頼性の高い物理リスクのデータと分析手法が必要不可欠です。

一方、物理シナリオを用いた分析など、専門的な知識を要する分析を簡易に行うためには一般に多くの時間とコストがかかります。Gaia Visionでは、そうした課題に対するソリューションを提供しています。特に、気候リスク分析プラットフォーム「Climate Vision」では最先端の気候データを使って、物理リスクのシナリオ分析・財務影響評価を誰でも簡単に分析することができます。興味をお持ちいただけましたら、こちらからお問い合わせください。

参考文献

  1. CDP https://www.cdp.net/en
  2. CDP 2022年 企業向け気候変動質問書 回答に向けて(詳細版)https://cdn.cdp.net/cdp-production/comfy/cms/files/files/000/006/117/original/Webinar_Climate_Change_2022_JP_v2.pdf
  3. CDP Scoring Methodology Category Weightings https://cdn.cdp.net/cdp-production/cms/guidance_docs/pdfs/000/003/444/original/CDP-Climate-Change-Categories-Weightings.pdf
  4. IPCC Sixth Assessment Report  https://www.ipcc.ch/report/sixth-assessment-report-working-group-3/
  5. The 2023 Climate Risk Landscape https://www.unepfi.org/themes/climate-change/2023-climate-risk-landscape