コラム Column

2023年10月11日

Gaia Visionの目指す社会と現状の取り組み(日経超DXサミットでの講演より)

本記事では、2023年9月に開催された日経超DXサミット2023のピッチでご紹介した、Gaia Visionの目指す社会像や、現状の取組状況、今後の展望などをご紹介します。

■Gaia Visionの目指す社会:企業/自治体一体的にリスク評価~対策を推進(”流域TCFD”)

近年、大きな洪水災害が相次いで発生するようになっています。例えば、2018年には西日本豪雨(水害被害総額:1兆4050億円、出所:国土交通省)、2019年には東日本豪雨(水害被害総額:1兆8600億円、出所: 国土交通省)が発生しています。今後も気候変動による災害の激甚化が予想される中、社会の自然災害に対する安全性を高めることが求められています。そのためには、個々の堤防建設などの対策を行っていくことに加えて、企業や公共団体がきちんと将来の気候変動を見据えたリスク評価を行い、適切な対策につなげるといったマネジメントサイクルを定着させていくことが必要だと我々は考えます。

構造的に安全になっていく仕組みを作る
構造的に安全になっていく仕組み(マネジメントサイクル)を作る

実際に、CDPやTCFD/ISSBといった国際的なルール(やイニシアティブ)は、世界中の企業に対して自律的な気候変動リスク管理を要請しています。一方で、国際ルールは整いつつあっても、実際には災害リスクに対する定量的な評価や、具体的な対策につなげる動きは限定的です。これは、将来の気候変動による影響を含めた洪水リスクの評価が難しかったり、企業単体で災害リスクに対して取れる具体的な対策が限られるためです。

TCFDなど、既存のルールには限界あり
TCFDなど、既存のルールには限界あり

我々としては、

  1. 気候変動を考慮した災害リスクを解像度高く評価できる仕組み【リスク評価】
  2. リスクをリアルタイムに予測・検知できる仕組み【リスク検知】
  3. リスク評価の結果を踏まえ、適切な対策につなげる仕組み【リスク軽減】
    • 企業自身で取り組む対策
    • 公共で取り組む対策につなげる(企業のリスク情報も踏まえ)
      ≒”流域TCFD”

の3つが社会に実装され、国際的なルールでマネジメントサイクルが後押しされる姿があるべき姿だと考えています。

なお、洪水対策の観点からは、企業単位や個別自治単位ではなく、河川流域の上流から下流まで複数のステークホルダーが連携して治水に取り組む「流域治水」が重要とされます。TCFDなどで行われる企業単位でのリスク評価結果も、流域治水の文脈に当てはめていくことは重要な考え方であり、”流域TCFD”と呼んでいます。洪水リスクの受け手である企業の声やリスク情報(想定被害情報)を集約し、一般住民のリスクと併せて地域や流域単位でリスクを評価し、適切な対策につなげていく考え方です。

 ※参考:気候リスク情報開示への広域洪水モデルの活用と流域治水への展開、山崎 大*1・平林 由希子*2、河川2023(*1: 東京大学生産技術研究所准教授、*2:芝浦工業大学教授)

■Gaia Visionのソリューション1. 国交省の手引にも掲載された気候変動リスク分析プラットフォーム「Climate Vision」

そこで、1.に相当するソリューションとして、Gaia Visionは気候変動リスク分析プラットフォーム「Climate Vision」を提供しています。これは住所などの拠点情報を入力するだけで、簡単に洪水リスクの定量評価ができるプラットフォームです。国土交通省が発行しているハザードマップなど従来のソリューションと比較して、グローバルに対応可能であること、かつ将来の気候変動に対応している点が強みとなっています。Climate Visionを利用することで、拠点の洪水浸水リスクを定量的に理解し、CDPやTCFDなどのサステナビリティ情報開示/将来気候シナリオ分析、社内の災害対策検討、BCP検討並びに社内での合意形成に活用可能です。また、Climate Visionは、2023年3月に国土交通省から発表された「TCFD提言における物理的リスク評価の手引き」において、将来洪水ハザードマップに関するプロダクト例としても紹介されています。実際にNEC社サカタインクス社など製造業を中心に、Climate Visionを利用したリスク分析と情報開示を行った事例が多くうまれつつあります。これらをてこに国際的な標準ツールの一つとなることを目指していきます。

将来気候シナリオ分析機能
将来気候シナリオ分析機能

Gaia Visionのソリューション2. リアルタイム洪水予測

洪水リスクの長期的な評価だけでなく、リアルタイムでの洪水予測ソリューションの開発を目指しています。自治体においては洪水の際に適切な避難誘導を行うことが重要とされていますが、その判断は必ずしも定量的な判断にもとづいて行われているわけではなく、適切かつタイムリーな避難指示の実現に課題感を持っている自治体の方も多くいます。また、製造業やインフラ企業などの民間企業も適切かつタイムリーな予測的事前対応の必要性を感じています。

我々が目指すソリューションが実現すれば、1日半程度前にピンポイントに地点ごとの洪水浸水を予測できます。これによって、広範囲な避難指示ではなく、小集団向けにカスタマイズされたメッセージ発信ができるようになるなど、より有効な避難誘導に繋がることが期待されます。現状、プロトタイプが完成し、潜在ユーザとなる自治体や企業向けへのご案内を開始しています。

リアルタイム洪水予測のイメージ
リアルタイム洪水予測のイメージ

※参考:シミュレーション動画

■Gaia Visionのソリューション3. 治水事業検討支援ツール

また、「流域TCFD」に関連して、例えば堤防建設・強化を行った際にどの程度被害額を抑制できるのかといった、治水事業の検討支援ツールの開発も行っています。災害リスク対策については、「必要だとは思うが、起きるかどうかわからないもののために予算をつけづらい」といった声も聞かれます。そうした中で治水事業の投資対効果を、企業の受ける被害も含めて評価する-これによって、適切な治水事業の推進を後押しすることを目指しています。また、ダムの計画検討や運用において重要な河川流量の推定などにも取り組んでいます。気候変動リスク分析プラットフォーム「Climate Vision」の展開やリアルタイム洪水予測ソリューションの自治体向けの展開が進むことで、企業保有資産の想定被害を正しく見積もれるようになる等により、治水事業推進の後押しも加速していく考えです。現状こちらもプロトタイプを作成し、ご紹介を開始しています。

Gaia Visionの事業の全体像
Gaia Visionの事業の全体像

■今後の展望

今後は気候変動リスク分析プラットフォーム「Climate Vision」の展開・機能拡張を進めるとともに、リアルタイム洪水予測や治水事業支援の実証/社会実装などを進めていきます。

また、海外への展開にも注力したいと考えています。Gaia Visionは、グローバルに洪水リスクを分析できることに強みを持っており、こうした技術的な親和性を踏まえて、かねてよりグローバルでの展開を志向しています。直近ではCreww・Google for Startupsの支援をいただき、海外からの利用ユーザも獲得しつつあります。

今後も、技術開発やグローバルでの事業開発を推し進め、世界中で気候変動への適応に貢献することを目指します。

参考)日経超DXサミットでの発表

本記事の内容について「日経超DXサミット2023」のピッチイベントにて発表を行っています。発表後には、審査員の方から、こうした予測ソリューションをどう実際の対策に繋げるかや、Gaia Visionのグローバルでの分析技術の強みに関してご質問頂くなど、ピッチイベントの内外を通じて建設的な議論が行われました。イベントの詳細は以下の記事を御覧ください。

https://www.gaia-vision.co.jp/news/1512/

まとめ

Gaia Visionは、気候変動により激甚化する災害リスクを少しでも下げることを目指しています。中でも、企業や公共団体の災害リスクの評価~適切な対策の推進といったマネジメントサイクルを実現することで、安全な社会を作っていきたいと考えています。”流域TCFD”といったキーワードの通り、企業のリスク評価を行いつつ、地域や流域単位で取り組むべき流域治水につなげることも重要と考えます。

そうした課題認識のもと、Gaia Visionは、高解像度でのグローバル洪水シミュレーション技術を活用して、1. 気候変動リスク分析プラットフォーム、2. リアルタイム洪水予測、3. 治水事業支援 に取り組んでいます。1.においては、特にグローバルで将来気候シナリオ分析を高解像度に行える点が評価され、国交省の手引への掲載や活用事例の創出が進んでいます。2.においては、1日以上のリードタイムでピンポイントに洪水浸水を予測するプロトタイプが開発され、自治体での避難指示や、製造業・インフラ業での予測的事前保全への活用などが想定されています。3.においては、想定被害のシミュレーションをもとに適切な治水事業につなげる仕組みの開発を行っています。

グローバルに複数の拠点を有している製造、インフラ、不動産、物流、建設業界等の方々や、これらの企業への投融資を行っている金融機関の方々、また河川管理や危機管理に携われている自治体・公共団体の方々のご参考になれば幸いです。ご不明点などありましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。